アイスと雨音という映画を観たので、感想を書くよ

 アイスと雨音という映画を観ました。実は御縁がありTAMA映画祭で一度鑑賞させていただき、本日の初日が2度目。

 TAMA映画祭のときに感想を書こうかなぁとも思ったのですが、ネタバレになるといけないのと、一般公開前の映画の感想を書くのはどうなのよということで封印。今回、2度目の鑑賞を行ったので、感想を書きます。

 

 TAMA映画祭で観ておきながらも、わざわざ初日に観に行ったことでわかるとは思うんですが、傑作です。

 この作品はおよそ1年前に松居大悟監督自身が計画した舞台が直前で中止になり、その実話を元に作られた物語。実話を物語にしたといっても、恨み辛みを凝縮した感じではなく、上手く感情を整理して作品に仕立てあげられている。

 その感情を伝える為に作品は74分間ワンカットで、休む暇もなく一気に駆け抜ける。これは元が舞台が中止になって始まった物語だから、幕が上がれば休むことのない舞台のように、映画もワンカットで撮影しなければならないとの考えに基づくもの。

 音楽はMOROHAが担当していて、UKさんのギターとアフロさんの語りで作品を盛り上げる。こちらも後で合わせたものではなく、作中で実際に演奏し、語られたものが使われている。

 俳優陣は中高生限定のオーディションで集められた若者たち。若者といっても子役が長いベテランから新人まで様々。中には中止になった舞台に出演予定だった女の子も。

 74分間ワンカットと書くと、癖のある作品にも捉えられかねないが、作品は直球。松居監督の想いと俳優陣の演技が結実した素晴らしい作品になってます。主役で特に最初から最後までを演じきる森田想さんの演技は見もので、これだけでも見る価値のあるものになっている。

 

ここからはネタバレを含みます。物語の内容など致命的なものではないですが、作品で使用されている手法に関するネタバレがあります。ミステリのトリック的なものではないですが、気にする人は避けてください。

 

 何故この映画が74分間ワンカットという奇策を採用しながら、74分間も飽きずに観られるのか、脚本や俳優の演技が巧みだからというのは基礎にあるのだが、その根っこは虚構と現実を横断していく仕掛けにある。

 作品は基本的に舞台が中止になる実話をベースにした物語を中心に進む。ただ、その途中で彼らが行うはずだった舞台の内容ーーつまりは作中作が差し込まれる。作中作は実話をベースにした話とは直接の関連性はないのだが、演じる作中作のキャラクターの感情がそれを演じている際の彼らの感情と共に伝わってくる。

 更に物語が進むにつれて、作品と演じるはずだった舞台の境目がなくなっていく*1。作品が観客を信頼し、感情がダイレクトに虚構と現実を横断していくことになる。

 つまりこの作品における作中作の役割は2つある、一つはそれを演じる役者の感情を観客に伝えること。もう一つは作中作自身の内容を観客に伝えること。

 当たり前だが、現実で展開している物語と、虚構で展開している物語は違う。違うから飽きずに74分間を見続けることが出来る。虚構を介在することで、多種多様な感情を発生させることができ、作品に複雑さが増していく。

 この作品の特徴は74分間ワンカットであることだ。それはつまり区切りが無いことを意味する。区切りが無いことが何を意味するか。それは観客が作品から発せられる感情から逃れることが出来なくなるということだ。観客も74分間ワンカットで綴られる物語に付き合わなければならない。

 無論、それは俳優の演技に信頼がなければなし得ないことではあるだろう。74分間が地続きであるということは、何処かで観客が物語から降りてしまうと、再度乗ることは出来ないことを意味する。最後まで観客を付き合わせることができる俳優がいないと作品は成立しない。

 森田想さんは間違いなく、その役目を全うしたと言えるだろう。素朴な演劇少女と、男性も女性も垂らし込む奇矯な少女の2人を、74分ワンカットの中で見事に演じ切った。くるくると感情とキャラクターが変化する様は見ものであり、それだけでも十分に見る価値があるだろう。

 この作品は、計画した舞台が潰れてしまったという松居大悟監督の想いと、その想いに寄り添い言葉を紡ぐMOROHAの2人、そのバトンを受けつつ作品を結実させた森田想さんの演技、そして作品を作り上げていく若い役者たちの勢いによって出来た作品だと思う。

 この作品は他にない作品だとは思わないし、不世出な作品であるとは思わない。ただ、実際に起こったことの想いを、感情をこれだけ直接的にぶつけた作品という意味では不世出といえるのではないだろうか。

 

 この作品は過去に何かに挫折したこと、しそうになったことがある人、何かに負けそうになったことがある人、何かにがむしゃらに突っ走りたい少年少女だったことがある人は観ると元気をもらえると思います。そうじゃなくてもとりあえず観てください。

 松居大悟監督もそうですが、俳優陣もこれからの人が揃ってるので、観とくと数年後に自慢できること請け合いです。本当に素晴らしい作品なので、何卒何卒。

*1:但し、何が現実で何が虚構かわからなくなるとか、そういうメタ的でチープな作品ではないです。