漁港の肉子ちゃんを見たよ

 明石家さんまさんプロデュースの漁港の肉子ちゃんを観ました。原作は未読。

 明石家さんまさんプロデュースということで、ネットでは事前にいろいろ言われているのも観ましたが、独特の色が出た佳作でした。

 

 漁港の肉子ちゃんを制作したのは圧倒的な映像美で評価されるstudio4℃。観に行きませんでしたが、場外でいろいろ問題があったえんとつ町のプペルの同じ布陣。

 studio4℃は制作会社の知識のあるアニオタであれば、映像に絶対の信頼を置いているくらいに、圧倒的な映像美が評価される会社である。吉本製作とのことで不安な部分も多々あるが、映像的には間違いない作品が観れるだろう。

 と思いながら観に行ったのですが、studio4℃の圧倒的な映像は発揮されず。キャラデザは不安定で、『海獣の子供』で魅せた映像の素晴らしさ、studio4℃の凄さは何処へやら。

 ただ、世界観と物語は素晴らしく、10年後、20年後にこの作品がアニメでいちばん好きな人がいたとしても納得できるし、まさしくstudio4℃とさんまさんが組んだからこそ出来た唯一無二の作品でした。

 

 いやはやこんな作品が見れるとは思わなかった。漁港の肉子ちゃんは間違いなくさんまさんが参加した意義のある作品だし、吉本が参加してなければ、もっと違うテイストの作品になっていたと思う。

 この作品が描いているのは生の肯定。先程唯一無二の作品と書いたけれど、実のところ、似たようなテーマを扱った作品は実写ではたくさんある。

 だから、単純な物語だけでいえば新しさは何もない。映画に詳しい人であれば、似た作品をすぐにいくつか並べられるだろう。

 この作品がそれらの実写作品と違うのは、生の肯定が強く出ていて、悲壮感が少ないこと。こういうテーマを扱った実写作品だと、どうしても肉子ちゃんの過去から悲壮感が強く出すぎる。

 そこを肉子ちゃんのコミカルさを前面に出すことで悲壮感を中和することに成功している。これはもちろん原作の力もあるだろうし、アニメの力もあるだろうけれど、話のテンポなどを見るにさんまさんの力も大きいのではないか。

 

 あと、肉子ちゃんの娘を中高生ではなく、小学生にしたのもテーマを描くのに上手く作用している。

 こういう作品では肉子ちゃんの"女"の部分を出す為に娘を中高生にして、思春期から来る性への嫌悪を描くことが多い。

 娘を小学生にしたことで性の部分が表に出づらくなり、この作品で描きたいテーマを直球で描けるようになっていると思う。

 この辺りは原作の設定によるものなのだろうけど、映画の短い時間でテーマを描く中では地味に効果的に働いているのではないか。

 

 この作品に対する感想で、さんまさんがあんまり関わってないからよかったというものと、さんまさんの色がここまで出ている映画だと思わなかったという両極の感想が散見されるが、オタクの警戒感の強さとさんまさんのイメージから来るものだと思う。

 さんまさんがあんまり関わってないように見える人は、無理矢理ギャグを入れたり、無意味に芸能人が出たりなど、出しゃばりの部分が出てくることを懸念していたのだろうが、そんな部分はほとんどない。あっても気にならないか、効果的な使い方をされている*1

 その反面、"生きてるだけでまるもうけ"のようなさんまさんの思想や、笑いで培われたテクニックやテンポが表現されているから、思ったよりもさんまさんの色が出ているとの感想も出てくる。この辺は明石家さんまという芸人をどう捉えているかによって、意見が変わっただけだと思う。

 

 漁港の肉子ちゃんは明石家さんまプロデュース、吉本製作であることから観ない人が割と多そうな作品だけど、いい意味で期待を裏切る作品になってると思う。

 絶対に観に行くべき、これ以上は無いなんていう作品ではないけれど、この作品がいちばん好きという人は一定数いる作品であるのも間違いない作品だと思う。

 必ずしもアニオタが好きな作品ではないし、多くの人にビシッとハマる作品でもない。ただ、観た後にいい作品を観たなぁと思う人がたくさんいる作品だと思う。

 いろいろな条件から積極的に観に行きづらい作品だとは思いますが、気になった方は是非。

 

 

*1:スタッフロールを見ればわかるとおり、さんまさんと親しい芸人が大勢声優として参加しているが、そのすべてが一瞬だけの端役であり、人ですらない場合がほとんど。