「ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド」がThe Game AwardsでGame of the Yearを受賞したのは不当だったのかを考えてみた

追記:2020年に読み直したら、考えがまとまってなくて読みづらすぎた。私が書きたいことを簡潔に書いてくれているAmazonレビューを見つけたので貼っておきます。

https://www.amazon.co.jp/gp/customer-reviews/R26OQ9ZMY6IJXO/ref=cm_cr_dp_d_rvw_btm?ie=UTF8&ASIN=B07DN7Z1YC#wasThisHelpful

 

 

 ゲンロン8は読んでうんざりしていたのだが、東浩紀氏が記載内容に間違いがあるなら正誤記載して送るようにと呟いていたので書いてみる。たぶん送らないけど、書く。

 

黒瀬:

 全世界のゲームメディアが選ぶ「The Game Awards」という賞がありますが、一七年度は『BOW』(引用者注:「ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド」)がGame of the Yearを獲った。そればかりか、『スーパーマリオオデッセイ』までノミネートされていて、さすがにおかしいと思いました。ゲームとしての新しさやクオリティで見れば、『PLAYERUNKNOWN'S BATTLEGROUNDS』や『Horizon Zero Dawn』のほうがあきらかに上です。

 同賞を選ぶメディア関係者は任天堂信者が多い。一七年は任天堂の年だという声がとにかく大きかった。でも実際のところ『BOW』はふつうのオープンワールドゲームですよ。

(中略)

井上:

 ここまで日本がダメだという話ばかりしてきたけど、欧米の評価の偏りも問題です。「Metacritic」というサイトがあって、映画やテレビ番組、ゲームなどの点数をつけていて、それは「メタスコア」と呼ばれています。メタスコアは、英語圏のさまざまなメディア、ゲームならばIGNや『Game Informer』などから点数を集め、特殊な計算式で一〇〇点満点換算して得られたものです。このメタスコアの点数は、評価基準として多くのゲーム企業も使っていたりします。

 ただ、これは主に英語圏のメディアからデータを集めるものなので、結局は英語圏のメディアで活躍しているライターの好みがモロに反映される点数になるわけです。そして彼らのほとんどは任天堂ゼルダが大好きです。アメリカでオールタイムベストを選ぶと、一位は必ず『ゼルダの伝説 時のオカリナ』です。新作が出たら大絶賛ですけど、ある意味それは自動的に決まっている。

 

 黒瀬氏と井上氏の該当箇所のみを引用しています。他の該当部分に関しても触れていますが、引用が長くなるのも良くない為、引用部分は最小にしています。気になる方は書籍を購入して読んでください*1

 

 最初に書いておくとこの発言の個々の要素に誤りはないです。

 欧米で「ゼルダの伝説 時のオカリナ」が評価され、オールタイムベストに多く選ばれていることは確かですし、欧米のゲーム関係者にゼルダ任天堂のファンが一定数いることも事実でしょう。

 しかし、欧米で「ゼルダの伝説 時のオカリナ」が評価されていることや任天堂のファンが多いことと、それが「ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド」がThe Game Awardsを受賞したことにどれだけ因果関係があるかはわかりません。

 例え、欧米のメディア関係者に任天堂ファンが多かったとしても、任天堂ファン以外のメディア関係者も「ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド」を評価した可能性も残ります。因果関係があるのかないのか検証するのは不可能です。

 

 とはいえ、まともにゲームの情報を追っていて、海外の賞に関する情報を積極的に入手している人であれば、この発言に対して即座に鼻で笑うのは間違いないでしょう。

 何故なら「ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド」がGame of the Yearを受賞したのはThe Game Awardsだけではないからです。

 ゲーム開発者によって選ばれるGame Developers Choice Awardsと、ゲーム業界関係者によって選ばれるD.I.C.E. Awardsでも「ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド」はGame of the Yearを受賞しています*2

 ちなみにどちらの賞でも「スーパーマリオオデッセイ」は「ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド」と同じくGame of the Yearにノミネートされています。

 つまり両作品共にThe Game Awardsに関わっているメディア関係者だけではなく、ゲーム開発者、ゲーム業界関係者にも評価されていることがわかります。

 

 「ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド」がGame of the Yearを受賞したのは上記の3つの賞だけではありません。毎年のGame of the Yearをまとめているブログ*3によれば「ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド」は世界中で189ものGame of the Yearを受賞しています。他の作品を抑えて、断トツの1位です。

 国名をあげると米国、英国、ドイツ、スペイン、カナダ、南アフリカ共和国、オランダ、ブラジル、スウェーデンデンマーク、フランス、ポルトガル、インド、トルコ、スイス、日本、イタリア、ギリシャ、ベルギー、オーストラリア、メキシコ、アルゼンチン、ハンガリーオーストリアノルウェーポーランド、香港、スロバキア、コロンビア、チェコフィンランドポーランド

 見逃しもあるかもしれませんが、ざっと32ヵ国でGame of the Yearを受賞しているようです。英語圏だけではなく、世界中で評価されているようです。素晴らしいですね。

 

 賞により傾向などもあるでしょうし、選考委員に任天堂を好いている方が多い賞があるのも事実でしょう。当たり前ですが受賞できなかった賞もたくさんあります。ただ、これだけの賞を、これだけの国で受賞したのは果たして任天堂信者が多いからでしょうか。

 最初に挙げた三賞にしたところで任天堂がThe Game AwardsのGame of the Yearを受賞したのは前身のSpike Video Game Awardsから数えても初めて。Game Developers Choice Awardsを受賞したのは「メトロイドプライム」以来15年ぶり2度目。D.I.C.E. Awardsも受賞したのは「ゼルダの伝説 時のオカリナ」以来19年ぶり3度目*4

 いずれも決して多い数とはいえません。これらの賞をもっと受賞している会社もあります。いずれも任天堂が楽にとれる賞ではないことだけはは間違いないでしょう。

 

 これだけの国で、これだけの賞を受賞したのは、果たしてすべての国で任天堂信者が多かったからなのでしょうか。

 ゲーム開発者が選ぶ賞を受賞したのはゲーム開発者に任天堂信者が多かったからなのでしょうか。

 ゲーム業界人が選ぶ賞を受賞したのはゲーム業界人に任天堂信者が多かったからなのでしょうか。

 もしそれが本当であるのであれば、ゲーム開発者とゲーム業界人にはNintendo Switchにもうちょっとゲームを出していただきたい。Nintendo Switchは踏ん張りどころです。信者の皆様の応援がなければ厳しいです。

 全世界の任天堂信者にはもうちょっとWiiUを買って欲しかった。WiiUの販売台数なんて、どー考えたって全世界にこんだけの数の任天堂信者がいるだけの販売台数じゃねーじゃねぇか‼︎ 信者なら買えよ‼︎‼︎‼︎ こんなに信者なんざいるわけねーんだよ‼︎ ばーかばーか。

 

 ちなみに井上氏が英語圏のメディア関係者は任天堂ゼルダが大好きと発言されていますが、すでに記載した通り、メディア関係者が選ぶはずのThe Game Awardsにおいてゼルダの伝説シリーズがGame of the Yearを受賞したのは「ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド」が初めてです。

 「ゼルダの伝説 風のタクト」と「ゼルダの伝説 スカイウォードソード」はノミネートを果たしていますが、「ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス」を含め他の作品はノミネートすら果たしていません。

 英語圏で活躍しているライターのほとんどは任天堂ゼルダが大好き、新作が出れば大絶賛が自動的に決まっているというには、メディア関係者は割としょぼい成績をゼルダシリーズに与えてますよね。ツンデレなんでしょうか。

 

 念の為に書いておきますが、賞の受賞の多さが作品の絶対的な評価を決めるわけではないと思います。

 ありとあらゆる作品の評価は個人ごとにあるものであり、それを否定するものではありません。どれだけ賞を受賞しても遊んだ人がダメだと思うのであれば、その作品はその人にとってダメなのは当たり前のことですし、それを否定される謂れはありません。逆もまた真なりです。

 ただ、だからといってその個人の価値観によって、大した根拠もなく作品の栄誉を汚されるのはあってはならないとも思います*5

 

 今回の件で何より残念なのは、作品の評価を否定する際に作品の内容ではなく、賞レースのゴシップ的な周辺情報を用いて批判したことです。

 このような内容を発言するのであれば、真っ正面から「ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド」より「PLAYERUNKNOWN'S BATTLEGROUNDS」や「Horizon Zero Dawn」が優れてる、評価されるべきだと論破して欲しかった。

 仮に共同討議で出なかったとしても追加鼎談で触れることも出来たでしょうし、共同討議としてはルール違反になり得るかもしれませんが、後日、そこだけを黒瀬氏が書き下ろすことも可能だったはずでしょう。

 世間的な評価が高い作品に対して、自分が優れていると思う作品を批評して世間に価値を認めさせるのは批評の醍醐味ではないかと思います。その手段を放棄し、このような手段に出られたのは非常に残念です。

 

 今回の件に関しては、発言者だけではなく掲載した出版社にも疑問があります。

 そもそも「ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド」がたくさんの賞を受賞してるなんてこんな内容、ちょっと検索すればわかるもんなんですよ。また、その評価に賛同するか否かは別にしても「ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド」が発売時にGame of the Yearに選ばれてもおかしくないほどに絶賛されていたのは、日常的にゲームメディアに触れていた人なら知ってるはずのことです。

 そんな発言を何故ゲンロンは掲載してしまったのか。黒瀬氏の安易な発言に関して、校閲段階で検索して問題ないか、間違いないかを確認しようと思わなかったのか。そもそも今回の企画を始めたり、年表をつくるにあたって、ゲームメディアで情報収集をしてないのか。

 思想地図β1で誤植が100個とか、めちゃくちゃ多かったのを記憶してますが、現在のゲンロンでは校閲作業をまったくしてないなんてことはあるまいし、なんでこんな発言が残ったのかは本当に疑問です。

 もしかして炎上を狙ったんでしょうか。こんな発言を残しておいたら馬鹿な妊娠が顔真っ赤にして怒り出すわwwwあいつらアホだからwwwとか、そんな感じだったんでしょうか。怒りましたよ。満足ですか? こんなんで本が売れて満足なんですか。

 あの発言が掲載された本当の理由はわかりません。ただ、まともに下調べをして、まともに作品に真摯に向き合う気持ちがあれば、あんな発言が載ることはないと思います。任天堂もそうですが、何よりThe Game Awardsへの侮辱でしょう。

 手抜きか、校閲の不足か、炎上狙いか、原因がどれかは知りません。どれにしたところで残念です。

 

 話が変な方向に向きました。内容をまとめると今回のことでどうかと思っているのは以下の3点。

1.不用意に作品と賞の評価を貶める発言を何故掲載したのか

2.黒瀬氏の発言内容に関して、どこまで信用できるかの調査、検証は行わなかったのか

3.「ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド」、「PLAYERUNKNOWN'S BATTLEGROUNDS」、「Horizon Zero Dawn」の直接的な作品評に差し替えることを何故しなかったのか

 念の為に書いておきますが、ほかの人と違っていままでのゲーム評論の流れを汲んでないとか、年表にあれが抜けてるとか、そういう話はしてません。というか、知識がないのでそんな話はできません。批評はどういう切り口で語ろうが自由であるし、切り口が新しければ新しいほどに価値があるとも思います。

 ただ、極めて事実誤認に近い情報を載せたり、気にくわない結果を出した賞を安易に侮辱するのはいけないことだと思います。

 今回は黒瀬氏が極めて間違いに近い発言をしたのにも関わらず、それがそのままゲンロン8に載ってしまったのは何故でしょうかという記事を書きました。クソ長くなってしまい、申し訳ありません。

 終わりっ。

*1:他の該当部分に関してはこちらのブログで引用されていました→http://hamatsu.hatenablog.com/entry/2018/06/18/022530

*2:http://news.denfaminicogamer.jp/news/180322b

*3:https://gotypicks.blogspot.com/2017/09/2017-game-of-year.html

*4:もう1作品はレア社開発の「ゴールデンアイ 007

*5:付記しておくと、黒瀬氏の文脈で賞自体を批判するならありだと思います。賞は批判されても次の回で挽回する可能性が残されてますから。もちろんその場合、自分の好きな作品、認める作品が受賞した回も同じように否定するのが筋です。